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2007年4月16日 (月)

カート・ヴォネガットのこと

 カート・ヴォネガット(Kurt Vonnegut 1922年11月11日~2007年4月11日)が亡くなった。
 わたしにはカート・ヴォネガット・ジュニアというペンネームの方が馴染みがある。それは、わたしが比較的初期の作品しか読んでいないからだが、つい最近、再版された「ガラパゴスの箱舟」を購入したところだった。ツンドクになっているけれど。

 カート・ヴォネガットはドイツ系アメリカ人として第二次大戦のドイツ戦線に参加するという体験を持つ。この壮絶な体験は、本人がどんなに否定しても、彼の作品の根源なんだろう。「母なる夜」(1961)と「スローターハウス5」(1969)は、この戦争を取り上げているという意味で、対をなすといえるかもしれない。「母なる夜」の方は、非SF。まっとうで、読みやすい(笑)。「スローターハウス5」のほうは、作家の分身のような主人公ビリー・ピルグリムが、結婚式の夜に4次元を認識できるトラルファマドール星人に捕らえられ(!)自分の人生の過去や未来を巡礼(ピルグリムだからね)することになるという荒唐無稽なもの。「大量殺戮を語る理性的な言葉など何ひとつない」という彼の主張がこういう表現方法を取らせたのかもしれない。奇妙でときに滑稽でさえあるが、救いはささやかである。
 ビリー・ピルグリムの生活信条というのがあって、これにマイッタ記憶がある。

God
grant me the serenity
to accept the things I cannot change,
the courage to change the things I can;
and the wisdom to know the difference.
「神よ願わくばわたしに
 変えることのできない物事を
 受け入れる落ち着きと
 変えることのできる物事を
 変える勇気と
 その違いを常に見分ける知恵とを
 さずけたまえ」

 実は、これはアメリカの神学者、ラインホールド・ニーバーの祈りとして知られているものらしいけど。
 
 ささやかな救いのキーワードは「親切」だ。「ローズウォーターさん、あなたに神のお恵みを」 (1965)には、双子の洗礼を頼まれた、慈善家のエリオット・ローズウォーターが、どうするつもりかと聞かれて、こう言う場面がある。

「やっぱり、あのうちへ行くことになるだろうね。赤ん坊たちの上に水をちょいとふりかけて、こういうかな。 『こんにちは、赤ちゃん。地球へようこそ。この星は夏は暑くて、冬は寒い。この星はまんまるくて、濡れていて、人でいっぱいだ。なあ、赤ちゃん、きみたちがこの星で暮らせるのは長く見積もっても、せいぜい百年ぐらいさ。ただ僕の知っている規則が一つだけあるんだ。いいかい――なんてったって、親切でなきゃいけないよ』」

 これにも、ズキュンとやられましたね。
 そしてアイス・ナイン。「猫のゆりかご」(1963)に出てくる、こんなに怖くて魅力的なSFアイテムを、わたしは他に知らない。
 
 本当のことを言うと、カート・ヴォネガットは、わたしにとって読みにくい作家である。登場人物(宇宙人も含む)たちの行動に動機がない(読めない、のかもしれない)。なんでこうなって、次にどうなるのかがわからない。際限なく理不尽な事態が展開され、それに振り回される。そういえば「タイタンの妖女」(1959)では、火星の小太鼓が "Rented a tent, a tent, a tent"(借りちゃった、あ テント、あ テント、あ テント――浅倉久志訳)と鳴り、それに合わせて兵士達が行進していた。なんなんだ(笑)。
 荒唐無稽で、滑稽で、でも笑えない。わけがわからないけど辛口で、救いの僅かな結末。でもそのなかに、どうしようもなく魅力的な言葉やアイテムが潜んでいる。
 さあ、「ガラパゴスの箱舟」を読んでみるかな。

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コメント

うそーっと、ここを読んで叫びました。
なんか、好きなSF作家さんが減っていくのは悲しいです。
因みに、私は「タイタンの妖女」が好きです。どうでもいい挨拶の手紙のために一生を狂わされる男という、不条理に満ちた話、世界観がやたらとハッピーエンドになれた私には新鮮でした。
私も、「ガラパゴズの箱舟」読もうかな。
ああ、まだあれが読めてない! 例のあれが!

投稿: Route M | 2007年4月17日 (火) 00時04分

Route Mさん、いらっしゃいませ♪

そうですよね。もう新刊をチェックしていなんだけど、昔馴染みの作家が亡くなるのは寂しいです。
アシモフやクラーク、ハインラインなどの、いわゆるSF作家たちが、小説世界に真実味を持たせようと、あれこれ理論を展開して説明に努めるのとは違って、ヴォネガットは背景や説明なしに、ぽんと読者の前に世界を放り出すような感じがします。その強引さと不条理さが、苛々するような、気持ちいいような(笑)。
いい加減忘れてしまっているので、「猫のゆりかご」から読んでいます。ガラパゴスに辿りつくのは、いつ?

投稿: 管理人 | 2007年4月17日 (火) 07時25分

カート・ヴォネガットの訃報を聞いて、読んでみようかと近くの図書館に行ってみました。でも同じことを考える人が他にもいるとみえて、ちょうど「ヴォネガット」の辺りだけ棚が空いてました。やれやれ。

投稿: まろん | 2007年5月 3日 (木) 16時07分

まろんさん、こんにちは。あらまあ、貸出中。よろしければ、お貸ししましょうか? 3、4冊あるようです。

投稿: 管理人 | 2007年5月 3日 (木) 20時53分

ありがとう。近々また図書館へ行かねばならないので、それでも入手できなかったらお借りしようかな。

投稿: まろん | 2007年5月 4日 (金) 13時09分

ハーイ、どうぞ。
その節はメールにてご用命くださいませ。

投稿: 管理人 | 2007年5月 4日 (金) 15時56分

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